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わが国海運育成の必要を認め、大久保利通内務卿はイギリスの航海条例をひきあいに出して、「殖産興業に関する建議」の中で海運の重要性を訴える。政府は大蔵卿大隈重信による「海運三策」と言われる建繊のうちから、民間会社を育成する方針を打ち出し、三菱汽船会社を保護・助成しながら、激しい競争の末に日本沿岸航路や上海航路からパシフィックメイルやP&Oを撤退させる。それ以降わが国のカボタージュは守られている。
−アメリカでの論議−
アメリカでは、カボタージュを規定したジョーンズ法が有名であるが、同法では米国内の複数地点間のみならず、途中に外国港を含む場合も含まれており、かつ就航船に関しても米国での建造船、米国籍船として登録されていること、米国市民が所有するという条件が課せられている。しかしながら、目下アメリカ国内では規制緩和の波に乗り、同法の改廃を主張するグループが現れている。改正派の論点は沿岸、五大湖、遠洋内航(ハワイ、プエルトリコ)においては競争不足が故に高運賃を余儀なくされているので、外国船を就航させるべしとしている。
一方、擁護派の論点は、米国籍内航船の運貸が外国船より高いのは船員が労働法や福祉法に則して生活水準を守り、船舶も安全規制法に従っているからである。内航海運に従事している関係者は法人税、所得税を納め米国経済に貢献しているし、国家安全保障上の役割も負っているとしてジョーンズ法の重要性を主張している。
−わが国内航海運とカボタージュ−
内航海運の現状を見ると、船腹量は平成七年三月時点で八、八三九隻「約四〇〇万総トンであり、輸送トン数も五億五、五〇〇。万トン強と大きく、内航船のわが国経済に果たす役割りは極めて大きい。しかしながら、抱えている課題は事業基盤が脆弱であること、四万人近い船員の高齢化が進んでいること、船腹需給が不安定であることなど問題は多い。先般改定された政府の「規制緩和推進計画」によれば、内航海退の分野については船腹調整への依存解消に向けた環境整備と、運賃協定の原則廃止が盛り込まれたわけで、今後市場原理を活用した競争促進が求められてくるだろう。
わが国では、アメリカのようにカボタージュ廃止や船員要件見直しなどの議論は未たされていないが、カボタージュを考える際には雇用や安全規制を念頭においた海運の在り方が議論されるべきであろうし、外航海運が国際的な自由競争下で船員の雇用を喪失している状況下では、海技の伝承を守るべき場として、内航海運を考えることも出来るのではなかろうか。

 

 

 

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